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東京高等裁判所 昭和58年(う)1511号 判決 1985年3月08日

主文

本件各控訴をいずれも棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、弁護人葉山岳夫、同田村公一、同辻惠、同千葉景子が連名で提出した控訴趣意書その一および同その二に記載されているとおりであり、これに対する答弁は、検察官土本武司の提出した答弁書に記載されているとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は次のとおり判断する。

第一  (略)

第二  正当防衛の主張について

所論は、被告人田村らがブロツクを投下したのは、鉄塔を登る被告人松田に対し機動隊の行なうガス弾発射という不正な侵害行為から右松田の生命を防衛するために同発射を止めさせようとして行つたもので正当防衛行為であると主張する。

しかしながら、原判決が、「弁護人らの主張に対する判断」の二において、警察官の被告人松田に対する催涙ガス弾の発射を不正の侵害ということはできないとして説示しているところは本件証拠に照らしすべて相当なものとして首肯し得るものであり、所論のいうような事実誤認や法令適用の誤りはなく、所論は採用できない。以下若干補足説明を付加するに、被告人らは原判示ブロツクの投てきの行われる三日も前から警察機動隊に対しあえて徹底抗戦の意図のもとにあらかじめ各種、多数の兇器類を準備して本件要塞にたてこもつたうえ、それぞれいつ終るとも知れない執拗かつきわめて危険な反撃を継続していたものであり、警察官による本件アームを使つた検挙活動が開始されたのは、被告人らのこのような反撃、抵抗が熾烈に続けられている状況下においてであつたから、かかる検挙活動に対し被検挙者側においてさらに強力、危険な反撃行為に訴えてその検挙活動を妨害し、排除することが正当視されるべきいわれはまつたくなく、被告人田村のブロツク投てき行為がやむを得ない正当行為となるものでないことは多言を要しない。所論は、被告人松田に向けられた警察官のガス弾発射行為をとくに取り上げてこれを不正な侵害行為であるというのであるが、警察官からガス弾の発射を受けるにいたつた被告人松田は、原判決が説示のとおり、すでに鉄塔八段目において激しい反撃行為をくり返している被告人田村や大場らに合流し、同人らとともに警察官らに対しさらに攻撃を加えるために鉄塔を登り始めたものと状況上認めるほかないものであるから、かかる被告人松田に対し、威嚇し、違法行為を制止し、同人を逮捕するためには同人に向けガス弾を発射するのもやむを得ない所為であると解されるのであつて、したがつて、これを不正の侵害ということはできない。論旨は理由がない。

第三~第四 (略)

第五  本件行為が正当であるとの主張について

所論は、成田空港の建設はその必要性がなく、その建設計画や建設過程などに数多の違憲、違法が集積されたものであるから、被告人らがこれに反対し、また、その弾圧に対して闘争するのは正当な行為であつてこれに違法の責任を問うことはできないとして、縷々主張するのであるが、被告人らの心情、見解や立場がいかであれ、現実に遂行された本件各犯行の罪質、その計画性や組織性、準備した兇器の質及び量、その行為の態様、その結果等に照らし、到底わが国の法秩序が容認しうるものではないとした原判決の説示はまことにそのとおりであつて、いかなる観点からしても被告人らの原判示各所為に違法性がないということはできない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決をする。

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